*0.はじめに **0.1 教育実習の研究授業週間 - 今週は,教育実習(隣接校実習)の研究授業の週で,附属高校・名古屋中での研究授業を拝見しました。 - 実は,今日,この時間に,附属高校では,GCを使った研究授業をしている学生もいます。 -- - みなさんも,秋には実習が。1年後には,2回目の実習が。 - そして採用試験が前倒しの可能性が。 - いろいろな意味で「準備をしよう」 **0.2 教育実習は「難しい」けど,きっと「手応えがある」はずです。 - 「きちんと正しく解説すること」が難しいわけではありません。 - 扱っている内容が難しいわけではありません。 *** 附属高校では - 指導案をきちんと終わらせることが気になると,「きちんと解説する」ことに走りがち。でも,そのとき,「生徒の様子」が見えなくなっていく。結果として,「生徒とは別のところでの授業,独演会になってしまいがち」中学校なら,生徒の反応から「それはだめだ」がすぐわかる。でも,高校生は大人だから我慢している。実習生には感じにくくても傍観者にはすぐわかる。 - 高校によって,いろいろなことが違う。母校で受けた授業と同じようにやればうまくいくわけではない。逆に,母校実習は,実習としていいのかどうか,疑問でもある。 - 自分が受けた授業とは違う授業をしなければならない難しさ。 - 「この学校」からみると,母校での授業は,「授業だったのか?」と思えるところもある。 - 「目の前の生徒たちとの授業」を,新しく自分の中で作らなければならないこと,難しいです。 *** 附属名古屋中学校では - 一目見ると,「5分で終わってしまうのではないか」という課題です。でも,それに50分を使うのは,そこに違う意味での学びの存在を,これまでの附属中の先生たちが実感してきたから。 - 特に中1の場合「この学校は,こういうことを大切にし,こういう授業をする学校なんだ」というのを,学んでいくための大切な時期です。 - 生徒がどういう発言をするのか,どういう反応をするのかを観察し,拾い,そして次に生かしていく。 - そういうかなり高度なやりとりが必要な授業が求められています。 - 附属高校と違って,「生徒の観察ややりとりなしには授業は成立しないので,それをしないような実習生はいません」「でも,観察できていないことも多いし,それを生かせていないことも多い」そういう意味で,とても難しいです。 *** 他の附属では,また別の難しさと可能性が,そして,公立学校でも,また別の難しさと可能性が。 - 岡崎は,「教材をつくる」「生徒にまかせる」ことが求められます。 - 公立学校では,またそれぞれの学校の特徴に合わせて,別のことが求められます。 - それぞれの学校だからこそ学べることを,肌で感じ,そして「生徒たちに育ててもらう」 - でも,実は,みなさんにとって,苦手なことの一つではないかと,ちょっと懸念します。 *** 今から準備しておいてほしいこと - 「対話」 -- 「大きい声で話す」というだけではありません。 -- 「相手のことば」「意図」「キモチ」などを,そこから読み取ることです。 -- 「先のことを見通しながら,発言する」ことです。 -- 「いろいろなところを観察しながら」話すことです。 - 「4年中等」の学生は,そういうことに,かなり力がある学生集団でした。 -- それでも,いろいろなところで困難さを実感しています。 - みなさんの集団は,そういうところに,もともと課題を感じる学生集団です。 -- 「急にできるようになる」ことではないのです。 - 「教材研究」 --「数学に関する理解」「中学校や高校の話題を,大学生目線で理解する」こと -- 数学の「使われ方」,社会や日常生活の中からみた数学の役割 - そして,授業の中で,生徒に再体験してほしいこと,学んでほしいこと。 *1. 教材研究から,次第に,授業設計へ - 前回や今回の素材などを教材研究し,「授業」の設計をして,指導案を作成することにつなげていきたいわけです。 **1.1 生徒の「活動」を授業の中心にしたい - 「活動」には,いろいろなものがありえます。 - みなさんの素材に則して,「どういう活動」が可能なのかを考えることが基本です。 - 今日は,ある素材の模擬授業から,「ここではどういう活動」があるのか,を検討することにしてみましょう。 *** 「活動」は「ペア」で考える方がいいかも。 -「発見」と「証明」 -「モヤモヤ」と「スッキリ」 -- など *2 模擬授業 **2.1 山中実践(九点円) -過去に,名古屋中で,山中先生が取り組んだ「九点円」 -もしかすると,みなさんの同級生が中学生のときに取り組んだ実践です。 **2.2 分析 - 「どういう活動」があった? **2.3 「授業記録」や「指導案」 - 授業記録として,「会話記録」が作成されることがよくあります。 -- 以前は,ビデオをもとに5分ずつ担当して会話記録を作成しました。 -- それは基礎資料です。 -- でも,「それだけで授業記録として十分か」というと,そうとは言い切れません。 - 教育実習でも,山中実践でも,授業の前に,指導案をつくります。 -- 教育実習では,「指導案の通りにすること」が求められるかもしれません。 -- でも,ホンモノの授業では,決して指導案通りにはいきません。 -- いや,「指導案通りにやってしまったので失敗した」というのもよくある話です。 -- 指導案は,授業の前に,自分にとっての授業のための準備として作成するものです。 -- 指導案は,一緒に取り組んでいる人と,授業の概要を共有しておくために作成するものです。 -- 実習の場合でいえば,みなさんが想定している授業の流れを文章化し,指導教員の理解と許可をえるためのものでもあります。 -- そして,実際の授業では,指導案のことは意識しつつも,目の前の生徒を観察し,そこから出てくるものをどうひろい,どう生かすかを考えながら,意思決定と行動の連続で構成していくものです。 -- 準備の深さは,人によっても,素材によっても,変わってもおかしくないのが,指導案です。 -- 山中実践だったら,どういう指導案をつくったのでしょう。 -- あとで,配布します。 -- それはみなさんが作成する指導案のテンプレートとして使っていただこうと思います。 *** 指導案の書式はさまざま -「実習前に,指導案の書き方くらい指導してほしてほしい」という指摘は,よくあります。 -でも,本学では,あまりそれをきちんとしません。 -その一つの理由は,「県内でも,書式は多様」だからです。少なくとも7種類くらいあるはずです。 -基本的に,「その学校」「その地域」等の書式に合わせて,参加する方々との共通認識形成のためにつくるのが指導案なので,「実習先にあわせろ」というのが,基本方針なのです。 -また,指導案は本来,「実際に授業をする対象の生徒たちをイメージしてつくる」のが基本です。 -でも,大学の授業での指導案作成では,「架空の授業」で取り組むしかありません。 -そういう意味では,みなさんにとっての「理想の生徒集団」(数学ができる生徒という意味ではない)をイメージして作成することを,この授業では取り組みます。 **2.4 「みなさんの素材」は適切だろうか。 -今後,次第に具体的な作業を求めることになりますが,「いい素材を見つけている」でしょうか。 -みなさんの素材を使いながら,今後の授業を進めていき,指導案作成や,模擬授業等に進んでいくことになります。 -「授業まで育てることができるか」を意識しながら,「いまの素材が適切」なら,それを深めてください。 - 「適切でない」と思ったら,代替のものを探してください。 -実際の授業では,大きな枠組みが決まっていて,一通り扱わないといけませんが,この授業では,「一つを選択すればいい」し,そこで,「数学的活動」にこだわってほしいのです。 *3. みなさんが提出した素材から (2) **3.1 松井くん -三角形ABCがある。辺BCの中点をMとし、点Aと点Mを結ぶ線分AM上に点Pを取る。点B,Cから点Pに向かって直線を引いたときに辺AB,CAで交わる点をそれぞれ点E,Fとする。この時、三角形の頂点を自由に動かしてみた時に線分AE,EB,CF,FAの間に何か関係性はないだろうか?また、それを踏まえて点Mが辺BCを自由に動くようにしたときに気づくことはあるか。 -GCの機能である「測定」を使うことによってチェバの定理を暗記して結果を分かってから考えるのではなく、頂点を動かしながら数字を見つつ考えることで生徒に新しい発見をもたらすのではないかという点で魅力を感じた。 -「チェバ,ネメラウスの定理」は,注目する学生がいつも一定数いますが,授業化では,活動としてあまり深まらないことが多いので,あまりおすすめしません。 **3.2 井上くん -チェバの定理の逆を用いて五心の存在の証明をしなさい。 --一点で交わることを示す問題を扱った後に特殊な場合を扱うことで定理の活用の幅が広がると考える。 --また、五心において三直線が交わるという特殊さがあるが、 --(チェバの定理の式)=1が成り立つとき三直線が一点で交わるという --特殊な場合の逆がどのような三角形でも成立するので面白いかなと思った。 -「使う定理を指定する」のは,たしかに一つの方法ではあるけれど,「演習」という感じになるのではないだろうか。 - 「証明」は「発見」とペアであり,「発見」のことはどうするの? ということが気になります。 - 逆の言い方をすれば,既知の定理をどう証明するかということでいえば,「知識をどう応用していくか」が焦点なので,「動かして調べる」ことはあまり必要ないように思います。 **3.3 井野さん -三角形の五心の関係について調べたとき、気づくことはあるか。 --以前に他の方が挙げていた問題と同じだが、自分なりの探求をしてみたときに探求する価値があるように思った。 --五心が一直線上になる場合と傍心以外が一点で重なる場合をかみ砕いて理解することで、五心についての知識の定着につながるように考えた。 -よくわからないけど,それって,Euler線のことを発見し,証明することを意味しているのだろうか。 **3.4 櫻木さん -A(-1,0),B(1,0)が円周上の定点で,点 P はその円周、楕円、双曲線上を動く点であるとき,内心と3つの傍心の軌跡を調べる。 --https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssep/40/0/40_181/_pdf/-char/ja -GCのばあい,「二次曲線の上を動く点」に関しては,「円」は簡単だけれども,楕円や双曲線で扱うのはむずかしいので,「円」に限定するか,他のソフトを使うかを検討する必要があります。 -内心と傍心との関わりを検討することは,おもしろいと思います。 -どういう現象から,どういう問いを生成するのか,が一つの焦点ですね。 **3.5 川崎さん -次の図で、△ABE∽△ACDを証明する。 --前回提出した、様々な定理のつながりを問いにしようと思い、この問題を選びました。 --点Aを動かしていくと、三角形の形が変わり、それぞれの図形を証明をすることで、使う定理の違いに気づかせ、定理のつながりを感じさせられると良いと思いまいた。 -まず,問いとして「○○を証明せよ」は,「動かして調べる意味」があまりないと思います。 -それ自体が,生徒が「動かして調べた結果見つけた仮説」のような位置づけになるはずなので。 -同じ素材,同じ文脈を使うとしても,「問い」などを変えることで,かなり変わるのではないでしょうか。 **3.6 久米くん -GCを用いて、定理や問題において、その仮定や条件を緩めることで新たな定理や問題を探求するという緩和法を行うのが良いと思った。定理の証明をした後にさらに、問題や定理にたいして考察をするときにGCを用いると調べやすいと思い、GCで探求する価値があると思った。 -そこで、扱う定理というのは、接する 2 円の接点と共通外接線の接点を結んだ 2 直線は直交するという定理である。 -この問題に対してのねらいというのはを証明した後にGCを用いて互いの円がどのような状況でも直角になるかどうか確かめてもらう。様々な状況というのは互いの円を接している、離れている、交わっているとである。その中で、交わっている時にのみ直角にならないことは分かる。その理由をGCを駆使して探求してもらうというのが狙いである。 -ちなみに理由としては共通内接線が無いからである。 --参考文献: --https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1865-20.pdf - 「問い」や「活動」をどう設定するといいのでしょう。 **3.7 荒山くん -(図12)においてどの点からシュートを打つのが最もゴールしやすいか?(最初は円を書かない) --→①点Pを動かしてみて、下図の角XPYの大きさが最も大きくなるような点Pはどんな点か? --②角XQY<角XPYとなることを示せ。 --①点A~Eのどの地点からシュートを打つのが最もゴールしやすいかまず予想させる。その後、実際に角度を調べて観察する。点Cが最もゴールしやすいことはこの観察からすぐにわかる。では、その点Cと同じ角度になるような位置はフィールド上のどこか調べる。(今日の授業の点をプロットし、円周角の定理を示す作業・問題に帰着する)点を単に調べるよりも、イメージしながら見通しを立てることがしやすいと考える。 --② 2通りの方法で証明ができる。証明の過程で円周角、三角形の1つの外角はそ れととなり合わない2つの内角の和に等しいことを用いる。 --下図のように補助線をかき,l 上に P 以外 の点 Q をとる。 --このとき,同じ弧に対する円周角は等しい ので, --角XPY =角XRY...(1) --△ RXP において,三角形の1つの外角はそ れととなり合わない2つの内角の和に等しい ので, --角XRY =角XQR +角QXR...(2) (1),(2)より,角XPY >角XQY --(証明2) --下図のように補助線をかき,l 上に P 以外の 点 Q をとる。このとき,同じ弧に対する円周角は等しいので, --角XPY =角XRY...(1) --△ XRY において, --角XRY = 180°-(角RXY +角 RYX)...(2) △ XQY において, --角XQY = 180 °-(角QXR +角RXY+角RYX)...(3) (1),(2),(3)より,角XPY >角XQY --参考文献 https://www1.gifu-u.ac.jp/~math/gifumathj/08009.pdf - --http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teacher/iijima/gc_rc/rc/gchtml/gc_02916-j-sample-07.htm -にも掲載しているけどね。 -解法は,きっと他にもある。 -「問い」は? -「活動は?」 --など,いろいろとつめていくといいでしょう。 **3.8 石倉くん --直線上を動く1点と直線上にない2定点とのそれぞれの距離の和が最小になるのは、動点がどこにある場合か。 --線対象についての問題で、紙でも作図は難しくないが、本当に距離が最小か実感がわきにくいと思うため、確認としてGCが使えると思った。 -「確認」なのかな。 -とすると,どういう問いから,どういう活動をして,そして,「確認」として,どう位置づけていくかというストーリーを明確にするといいでしょうけどね。 **3.9 村井くん -円周上に点A,B,C,Dをとり直線ACとBDの交点をEとすると、EA×ECとEB×EDの長さの関係はどうなるか。 -方べきの定理を発見もしくは確認できると思う。点をどのように動かしても成り立つことが分かると思う。点Eが円の内部にあるときに成り立つことを教えてから点を動かさせて探究させ、円の外部でも成り立つことを気づかせると公式が直感的に理解できると思う。 -方べきの定理は,扱いやすい定理の一つだと思います。 -同時に,「どういう発問」で,「どういう活動」か等を「自分が生徒の立場で取り組む」「自分が先生の立場で考える」等をすることがいいと思います。 **3.10 斉藤さん -角の二等分線を使わずに扇形の面積を2等分せよ。またその作図方法が正しいことを証明せよ。 --出典→ http://wwu.phoenix-c.or.jp/~tokioka3/tokioka_mondai/index.html --測定機能を使って面積を表現することができれば、色々な方法を模索できそうだと思いました。また、作図をするのに何を使ったかがわかるので、証明の筋道を立てるのにも活きると思いました。 -おうぎ形の作図のフォローは可能ですが, -もともと,「測定機能」の中に,期待されているような意味での面積測定機能はないと思います。 -「面積等分」は,基本的な問題の一つですけど,「扇形」でないといけないかな。 **3.11 西川くん -2円の位置関係を調べることそのものはいいと思うけど,生徒にとって「なるほど感」のある活動に仕上げていくのは,むずかしいかも。 *4. 課題 -4.1 今日の授業の感想 -4.2「GCで探究する価値がありそうな問題」(新しいものをもう一つ) -- 今回同様に,問題文のみでよい。 -4.3「取り組もうとしている問題についての図や問題文」 -- 今までつくったものでいけそうなら,それでいいです。 --修正等をする必要を感じたら,取り組んでください。 -4.4 「CIIの教科書」の「CASE1-3」について --この素材を選ぶ方はときどきいます。 --たぶん「簡単なはず」と思うのでしょう。 --(1)「何か簡単」と感じるのだろう。 --(2) でも,それではきっと授業にならない。なぜだろう。 --(3) 「難しさ」の原因は? --(4) 読んでみて,この素材にはどういう魅力があると感じますか?