作図の手引き(Geometric Constructorマニュアル Vol.2):飯島康之
[「作図の手引き」目次]

7.条件を満たす軌跡による図形の描画


7.1 例

「条件を満たす集合」というのは,たとえば次のようなものを指す。
(1) 二点A,Bから等距離にある点の集合 → ABの垂直二等分線
(2) 一点Aから等距離にある点の集合   → Aを中心とする円
(3) ∠APB=一定となるPの集合    → ABを弦とする円
(4) AP+BP=一定となるPの集合   → A,Bを焦点とする楕円
(5) AP−BP=一定となるPの集合   → A,Bを焦点とする双曲線の一葉

7.2 OHPシート作戦

 これらについて,Geometric Constructor などで調べる場合,特に変わった機能を使わ なくても調べることはできる。一つの発想としては,

すべてをソフトに頼るな

ということが挙げられる。たとえば,測定機能はソフトの内部にありますが,

ディスプレィ上の図を定規で測って何が悪い

とも言える。もちろん,ディスプレィ上の図は多少歪んでいたりする可能性はあるわけで ,ある意味ではナンセンスですが,私達の目的が「CADを使った製図」のようなもので はなく,「図形の問題について考えるという数学的探究」であることを考えると,

簡単な方法でとりあえずアバウトな結果を得て,概要を知る

というのは,目的に合わせて考えてみると,妥当である。それは一般に,ツール型のソフ トの利用全般についても一般化可能なことであり,つまり,

機能に関する学習は最低限にしたい
考える場面や作業内容として生徒にあったものを確保したい

ことが,授業で使うときには一つの原則となる。

 話を元に戻すと,条件を満たす点の集合を調べるためには,

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|      条件を満たす点の位置を画面上に「プロット」してしまえ      |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
というのが,一つの手となる。しかし,ディスプレィにマジックや鉛筆で書かれたらたま らない。だから,
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|      ディスプレィにOHPシートを張りつけ,そこに書き込め      |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
というのが,一つの手となる。この手は,教育的には別の効果がある。つまり,
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|  重ねてOHPで提示すると,何人分もの結果を「集約」することができる   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
ということだ。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|  一人で調べるのは大変だけど,みんなの結果を集めたら,ここまで分かる   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
という「演出」ができるという意味でも,OHPシート「作戦」と呼ぶに値する。(この 方法は,川崎市内で開発・洗練された。)

7.3 「一人」でするにはたまらない

しかし,この手は「授業向き」であっても,自分で調べるための方法としては,かなり 無理がある。特に教材研究等をする場合には,とりあえず,いろいろな可能性について調 べ, その中から選択するわけで,一つの問題に対する概略的な結果は,

あまり考えなくても,作業が進められる

のでないと,疲れてしまう。それを実現するための機能として,Geometric Constructor での「条件を満たす点の集合」がある。


7.4 アイデアとしての「領域の境界」

この機能を理解する上で,補足になると思うので,追加するが,OHP作戦の場合でも ,たとえば,

「∠APB=60°となるときに点を取れ」

と言うと,ほとんど点を取ることができない。特に,測定の桁を小数点以下2位くらいま で表示していたら,生徒はそれにこだわって,「60.01°でもだめじゃないか」と思 う。
 川崎で議論していたときに,こういうアイデアが出た。

「60°以上のときに青い○。以下の時に赤い○を書かせよう」
(授業のときに実際に扱ったのは,別の事例)

これは二つの意味で面白いアイデアでした。

(1) 60°の場合が,「青と赤の境界」として現れる
(2) 調べた結果, 60°より大きいところ,小さいところの結果も,書き込まれる
   (そうでないと,「調べていない」のと区別がつかない)
   (また,生徒が書き込める回数も増える)

7.5 Geometric Constructor における「条件を満たす点の集合」の機能

Geometric Constructor での機能は,上記の作業を部分的に自動化したものである。基 本的には,

ある変数の符号の変化に応じて,動かしている点の軌跡を変える

というものである。
そのため,∠APB=60となる場合を調べるには,数式機能を使って,

「∠APB−60」

について調べることになる。
 調べる手順は,次のようになる。

(1) 作図する。
(2) 測定する。必要があれば,数式を作り,その符号で判定可能にしておく。
(3) 「軌跡の設定」で「変数」を選択し,(2) の変数を選択する。
(4) F9のスイッチを確認。
(5) 変形してみる。
このとき,キーボードを使った場合には,等間隔に記号が並ぶが,マウスの場合には, もっと細かく調べたり,概略を調べられる反面,あまり綺麗にはならない。
また,描画の最中に,画面が汚くなるが,Esc キーを押すと,描き直すので,あまり気 にしないで,まずは変形をしよう。
この機能を使う場合も,メモリに対する配慮は必要なので,「画面全体を調べよう」と いうようなことはやめ,大体調べたいところが分かったら,「シフト+F9」でクリアし よう。
 また,98,FMの場合には,F7キーで画面をフロッピィ等に保管し,あとでまとめ てハードコピーを取ることなどができる。

7.6 ケーススタディ −円周角の場合−

(1) ∠APB=60°となるところを探そう
 まずは,「60°」の場合を,マウスを動かしながら,探してみよう。
 さて,どの程度大変なことだろうか。あるいはどの程度簡単なことだろうか。
 そして,たとえば10分という作業時間の中で,どの程度のことができるだろう。
  (そういう「体験」をまずしておかないと,授業化は難しい)

(2) 桁数を変えてみる

  あまり本質的なことではないが,必要に応じて,桁数を変えることもできる。
  「オプション」→「桁数の設定」
で,たとえば,「0 」を設定してみよう。あるいは,「20」にしてみよう。

(3) 「条件を満たす点の集合」を調べてみる
60°にしてもいいのだが,「この角と等しい」という対象が見える方がいいので,

「∠APB=∠AQB」

つまり,

「∠APB−∠AQB=0」

となる場合を調べてみよう。
ここでは,キーボードを使った方がいい。

+−−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|                  |                   |
|                  |                   |
|                  |                   |
|                  |                   |
|                  |                   |
|                  |                   |
|                  |                   |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+

7.7 練習問題

 次の条件を満たす点の集合を,求めてみよう。
(1) 二点A,Bから等距離にある点の集合
(2) 一点Aから等距離にある点の集合
(3) AP+BP=一定となるPの集合
(4) AP−BP=一定となるPの集合

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