作図の手引き(Geometric Constructorマニュアル Vol.2):飯島康之
[「作図の手引き」目次]
11. 様々なソフトでの作図との比較
11.1 Logo との比較
作図に関する重要な言語にLogoがあるが,LogoとGeometric Constructor の相違点を述
べておく。
(1)汎用言語ではなく,より限定されたアプリケーションである。
Logoはそれ自体が一つの言語である。その中で,再帰的なプログラミングが可能であり
,タートルを使いながら命令を再帰的に構成できる点に特徴があるが,Geometric Constr
uctor では,そのような,汎用のプログラミングを目指してはいない。
別の観点から述べるなら,Logoにはあまりに自由性があるため,多少慣れないと, それ
なりのプログラミングをすることが難しい。特に初等幾何的な図形を作図したり,それを
動かすためにはある程度の時間を要する。それに対してGeometric Constructor では,主
として初等幾何的な図形に限定して,より容易に,適切な作図あるいは,その動的な扱い
を支援することを目的としている。
(2)動的な図形の捉え方が異なる。
Logoが表現している幾何学はタートル幾何学であり,長さと角度の幾何学である。ある
いは,点のベクトル的な移動の幾何学と言うこともできる。換言すれば,Logoで考えられ
ている動的な図形とは,ちょうど,微分方程式の解曲線として曲線を捉えることができる
ことを元にしている。
それに対して,Geometric Constructor においては,主として初等幾何における作図が
構成的であること,そしてその依存関係を明示すると,ある定数を変数化したときに,全
体の図形を動かすことができるという点を基本にしている。そのような意味において,Ge
ometric Constructor は物理的な教具を一般化して実現したものに他ならない。
(3)(タートル+向き+長さ) vs.(幾何的対象+構成)
したがって,利用者が注目すべきもの自体が異なっている。Logoの場合, 重要な役割を
果たすのはタートルであり,それを自分の動きと同化して,その向きや移動の長さを決め
ていくという手続きである。それに対してGeometric Constructor においては,幾何的対
象, つまり図形を構成ている要素を, 点, 直線, 線分, 半直線, 円に分解して,どれがど
れによって構成されているのかを明確化することを目的としている。
以上の3つが基本的相違点である。実際の学習においては,小学校段階でLogoの方が使
われやすく, 中学校の方でGeometric Constructor の方が使われやすいと想像されるが,
必ずしも発達段階に応じているわけではない。むしろ,両者が表現しようとしている幾何
学的なアプローチが異なる点が重要である。そして,両者それぞれにおいて扱いやすい内
容と扱いにくい内容がある。
実際, 多角形の外角の和の性質などはLogoの方が扱いやすいし,また動きの単位をより
微小化することによって,点の軌跡としての曲線の性質, そしてそれを規定するものとし
ての微分方程式や差分方程式を扱いやすいのである。そして,後者に注目させるためには
,幼少の時期よりも,むしろ高校生や大学生になってからの方が妥当かもしれない。また
,Geometric Constructor の場合, 初等幾何的なものを扱うことは容易であると考えられ
るが,Logoが表現しようとしている点の軌跡としての曲線の性質などを表現することは難
しい。さらに, 両者のみで幾何学における図形に対するアプローチが十分かと言えば,も
ちろんそんなことはない。簡単な例を上げれば, 位相的な見方はどちらを具現化していな
いし,カバリエリの原理のようなものでさえ,表現できない。すなわち,重要なのは,幾
何に対するアプローチが多様であるのに応じて, 様々な図形処理の仕方が実現可能である
ということ,そして様々なアプローチをさらに明確にして,それぞれのアプローチは,教
育の中でどのような活動を支援することができるかを明確にしていくことなのである。
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